俺は、彼女のミナコと温泉旅館にいた。
「寒くなってきたし、どっかの温泉であったまりたいね~」
そんなミナコの提案がきっかけだ。
大学生の身だが、バイトで稼いだお金がある。
気兼ねなく旅行できるくらいの余裕はあった。
ミナコと別行動をとって天然湯に浸かった俺は、浴衣に着替えて自室へ戻るところだった。
温泉なんて久しぶりに入ったけど、なかなか気持ち良かったな。
うるさい彼女がいなくてゆっくりできたというのも大きい。
おっと、別にけなしているのではない。
もちろん可愛いところもあるのだが……
「梶田くん」
俺はフロントで呼びかけられた。
顔を向けると、すらりとした女子が立っている。
……ん?
「河野?」
「そうだよ。久しぶり、梶田くん」
俺を呼んだのは高校の同級生、河野だった。
色白でほっそりしていて、女子にしては背が高い。
あまり変わっていないように見えた。
と言っても、卒業してから1年も経っていないが。
「何してるんだ、こんなところで」
「何って、見ればわかるでしょ?旅行に来たの」
確かに俺と同じ浴衣を羽織っているから、温泉に入ったのはわかるが。
「一人か?」
「そうよ、気楽でいいからね。梶田くんは?」
「俺は……」
河野から視線を逸らす。
なんとなく、彼女と一緒と言うのが恥ずかしかった。
「わかった。彼女と来たんでしょ」
「……よくわかったな」
「顔に書いてあるわよ」
悪戯っぽく笑う河野。
その笑顔も、勘がいいところも変わってない。
「あ、いたいた。ユウー!!」
今度は下の名前で呼ばれた。
聞きなれた声に振り向くと、ミナコが駆け寄ってきた。
「なかなか戻ってこないから探したよ~。さ、ご飯食べよ!」
彼女は河野に目もくれず、ひたすらに俺を見つめている。
「わかったわかった」
俺は河野に向き直った。
「じゃあ、俺はこれで」
河野は微笑みながら、そっと手を振った。
***
夜中の0時過ぎ。
俺はミナコに気付かれないよう自室を出た。
あの後、携帯に通知が来たのだ。
高校卒業後は河野とやり取りしていなかったが、ここにきてメールを受け取るとは思わなかった。
指定された時刻に、指定された部屋番号をノックする。
ドアが開くと、うっすらと微笑む河野の顔が見えた。
「入って」
そう促され、河野の部屋へ。
俺は座敷に腰を下ろした。
「どうしたんだ」
「その……久しぶりに会えて、嬉しかった、から」
途切れ途切れに話していたかと思うと。
いきなり、河野が寄り添ってきた。
「お、おい」
「私、大学でいじめられてて……寂しかったの」
腕を掴み、肩に顔を乗せんばかりに近づく河野。
彼女の胸がそっと当たった。
おそらく、ミナコのそれより大きい。
「高校生のときは言えなかったけど……梶田くんのこと、好きだったんだ」
上目遣いで見てくる河野の顔は、とても綺麗だった。
見つめ合ううちに、俺のペニスが少しずつ固くなる。
ミナコのことが頭をよぎったが、今はどうでもいい。
河野と触れ合いたくてたまらなくなった。
「俺が、温めてやろうか?」
かつての同級生は、無言で小さく頷いた。
(著者:サーモン木村)